さまざまな事情で養育が難しい子どもを預かる施設『乳児院』。
保育士が資格を活かして活躍できる施設はいくつかありますが、乳児院もその1つです。
今回は乳児院について解説していきます。
働くために必要な資格や、乳児院の働き方について詳しくご紹介するので、ぜひ参考にしてください!
目次
乳児院とはどんな場所?
乳児院とは、さまざまな事情で育児が難しくなった保護者に代わって、乳児を預かり養育する児童福祉施設です。
全国には144ヵ所あって、約3,000名の乳幼児が生活をしています。(2019年度時点)
おもに0~2歳までの子どもたちが入所しますが、平成16年に児童福祉法の改正がおこなわれてからは、「保健上、安定した生活環境の確保その他の理由がある場合」は、就学前までの幼児も入所できるようになりました。
乳児院を利用する子どもたちは、下記の理由で入所しています。
- 虐待・・・39.7%
- 家族の精神疾患・・・19.4%
- 経済的困難・・・6.4%
- 離別別居・・・6.2%
- 母未婚・・・5.2%
- 家族の疾病・・・4.5%
- その他・・・18.6%
乳児院は24時間体制で子どもたちを見守ります。
子どもたちにとっては、安心できるお家のような存在になるため、保育士も一般的な保育園の「先生」ではなく、家族のような存在です。
参考:全国乳児福祉協議会「乳児院とは」
乳児院で働くのに必要な資格
乳児院で働くのに必要な資格は、下記のようなものがあります。
- 保育士資格
- 医師免許
- 看護師資格
- 栄養士・調理士免許
- 児童指導員任用資格
- 心理士資格
上記にくわえて、社会福祉士、精神保健福祉士の資格があれば、「家庭支援専門相談員」として働くこともできます。
また、施設によっては、保育士資格がなくても、保育補助としてパートやアルバイトとして働ける場合もあるようです。
参考:全国乳児福祉協議会「乳児院のしごと」
乳児院の働き方
ここからは、乳児院での保育士の働き方についてご紹介します。
仕事内容(業務内容)
乳児院で働く、保育士の仕事内容は次のとおりです。
子どもたちのサポート
乳児院では、24時間体制で子どもたちのサポートをおこないます。
食事の準備や寝かしつけ、おむつ替えやトイレトレーニング、発達に応じた遊びの提供など、乳幼児の生活全般をサポートします。
とくに、乳児院に入所している子どもたちは、家庭環境や情緒が不安定な場合が多いため、個々に寄り添った丁寧なケアが求められます。
保護者支援
保護者と定期的にコミュニケーションをとったり、保護者からの育児相談に対してアドバイスをおこなったりするのも、乳児院で働く保育士の仕事です。
さまざまな事情を抱えている保護者は、育児を再開することにさまざまな不安を抱えているため、保護者の不安に丁寧に寄り添いながら、個々に合わせたサポートが欠かせません。
また、子どもが退所して保護者のもとに戻った後の、丁寧なアフターケアも保育士の重要な仕事です。
専門家との連携
乳児院では、保育士だけでなく看護師や心理士、栄養士、福祉士など専門スタッフがたくさん関わって働いています。
子どもたちが安心して生活するためには、スタッフ同士で協力しながら子どもたちに一貫したケアを提供するのが大切です。
子どもたちの体調の変化や成長に関すること、家庭の状況などを専門スタッフにこまめに相談・共有しながら、適切な支援をおこなうのも保育士の大切な業務といえます。
雇用形態
地域や施設によってもさまざまですが、乳児院で働く保育士の雇用形態は次のとおりです。
- 正社員(常勤)・・・フルタイムでの勤務
- 契約社員・・・雇用期間が定められている形態
- 非常勤(アルバイト・パート)・・・短時間勤務や週数回などの勤務
- 嘱託職員・・・特定の業務を委託される形で雇用される形態
乳児院で正社員の保育士として働く場合は、日勤・夜勤を含めたシフト制で働くのが一般的です。
保育士のスケジュール例(日勤・夜勤別)
乳児院で働く保育士のスケジュールについて、日勤と夜勤でそれぞれご紹介します。
▼乳児院で働く保育士のスケジュール例(日勤)
時間 | 日勤保育士のスケジュール |
7:00~ 8:00 | 出勤・引継ぎ・夜勤のスタッフから子どもたちの体調や様子などの引継ぎを受ける |
8:00~ 9:00 | 朝食準備・食事の補助(授乳、離乳食) |
9:00~ 10:00 | 衣類着脱のサポート・掃除・洗濯・子どもたちの着替えのサポートや、施設内の掃除・洗濯をする |
10:00~ 12:00 | 散歩や遊びのサポート・発達に合わせた遊びを通して子どもたちの成長をサポートする |
12:00~ 13:00 | 昼食準備・食事の補助(授乳、離乳食) |
13:00~ 15:00 | お昼寝の寝かしつけ・子どもたちの寝かしつけをしたり、書類を書いたりする |
15:00~ 16:00 | おやつの準備・介助・遊びのサポート・おやつを準備し提供して、その後は自由遊びなどをしてゆったり過ごす |
16:00~ 17:00 | 引継ぎ・事務作業・退勤・夜勤の保育士へ、日中の子どもの様子を共有する |
▼乳児院で働く保育士のスケジュール例(夜勤)
時間 | 夜勤保育士のスケジュール |
16:00~ 17:00 | 出勤・引継ぎ・日勤のスタッフから子どもたちの体調や様子などの引継ぎを受ける |
17:00~ 18:00 | 夕食準備・食事の補助(授乳、離乳食) |
18:00~ 19:00 | 入浴のサポート・子どもたちの入浴をサポートし、入浴後は衣類の着脱、保湿ケアなどもおこなう |
19:00~ 20:00 | 就寝準備・寝かしつけ・絵本の読み聞かせや静かな遊びでスキンシップをとりながら就寝の準備をおこなう。寝かしつけをおこない、子どもたちが安心して眠れるように配慮する。 |
20:00~ 24:00 | 定期的な見守り・記録作業・定期的に体調確認や呼吸チェックなどをおこなう。書類の記入をして日勤への引継ぎ準備をおこなう |
24:00~ 6:00 | 見守り・休憩・仮眠夜勤の保育士は休憩や仮眠をとりながら、定期的に子どもの様子を確認する。授乳や起きてしまった子どもの寝かしつけもおこなう |
5:00~ 7:00 | 朝の準備・引継ぎ・退勤・日勤の保育士へ子どもの様子を共有する |
乳児院で働く保育士は、日勤と夜勤でシフトを交代しながら、24時間365日、子どもたちの安全と健康を守るための見守りやサポートが必要となります。
保育士は、医師や看護師など、乳児院で働く職員と協力しながら、子どもたちが日常生活を安心して過ごせるようにケアをしていきます。
参考:
厚生労働省雇用均等・児童家庭局 家庭福祉課「乳児院運営ハンドブック」
乳児院に向いている人
乳児院の保育士に向いているのは、次のような人です。
忍耐強い人
乳児院に入所している子どもたちは、さまざまな事情で保護者と一緒に暮らせない状況にあるため、寂しさやストレス、不安を抱えています。
保育士に対してなかなか心を開いてくれず、信頼関係を築くまでに時間がかかることも珍しくありません。
そのため、保育士は子どもたち1人ひとりに寄り添いながら、焦らず時間をかけて関わっていくことが大切です。
すぐに成果が見えなくても、長い時間をかけながら、忍耐強く子どもと向き合える保育士は、乳児院の仕事が向いているでしょう。
責任感がある人
責任感がある人は、乳児院の仕事が向いています。
乳幼児の大切な命を預かる乳児院では、日々の安全管理が重要になります。
乳幼児は自分で危険を察知するのが難しいため、保育士が常に見守りながら事故や怪我を未然に防がなくてはなりません。
また、乳児院で生活する子どもたちは、一般的な家庭環境とは異なり、日々のケアだけでなく、先々の将来を考えたサポートが求められます。
そのため、責任をもって子どもと丁寧に向き合える人、長期的な視点で子どもたちをサポートできる人は乳児院の仕事が向いているといえるでしょう。
体調管理ができる人
乳児院では、24時間体制で子どもたちのサポートをおこないます。
シフト勤務で働く保育士は、夜勤など不規則な勤務にも柔軟に対応しなくてはなりません。
不規則な勤務が続くと、疲労やストレスで体調を崩しやすくなりますが自分で体調管理ができる人は安定した生活を送れます。
また、乳児院では子どもを抱っこしたり、おんぶしたり、おむつ替えをしたり、遊びのサポートをおこなったりと体力が求められる場面がたくさんあります。
保育士が健康的で元気だと、子どもたちにもポジティブな影響を与えます。
そのため体調管理ができる人、体力に自信がある人は乳児院の仕事が向いています。
チームワークを大切にできる人
乳児院では、保育士だけでなく看護師や心理士、ソーシャルワーカーなど、複数の専門スタッフが連携し合って、子どもたちのケアをおこないます。
そのため、スタッフ同士で密なコミュニケーションをとることはもちろん、大変な状況でもサポートし合いながら働くのが重要です。
チーム全体で一貫性のあるケアをおこなうことは、子どもたちの安心感にもつながります。
立場の違う相手とも密にコミュニケーションがとれる人、チームワークを大切にできる人は、乳児院の仕事が向いているといえるでしょう。
臨機応変に対応できる人
臨機応変に対応できる人は、乳児院の仕事が向いています。
乳幼児をケアする現場では、急な体調の変化や、突発的にスケジュールが変動することも少なくありません。
とくに、乳児院で生活している子どもは、過ごしてきた家庭環境が1人ひとり異なるため、個々に合わせた特別なサポートが求められます。
時には、状況に合わせてアプローチを変える柔軟性も必要になります。
日々予測できない状況でも、冷静に考えて臨機応変に対応できる保育士は、乳児院で活躍できるでしょう。
乳児院に向いていない人
下記のような人は、乳児院で働くのが難しい可能性があります。
責任のある仕事が苦手な人
乳児院で、子どもたちの生活をサポートする保育士は、大きな責任がともないます。
日々、乳幼児と密接に関わり、個々に合わせた丁寧なサポートが求められます。
保育園と違って、乳児院の保育士は保護者に代わって子どもと密接に関わるため、責任の重さを感じる場面もたくさんあるかもしれません。
しかし、すぐに仕事を投げ出してしまうような責任感が乏しい人や、責任ある仕事が苦手な人には、乳児院の仕事は難しいでしょう。
協調性がない人
乳児院では、他の保育士や栄養士、心理士、看護師など、さまざまな専門家と連携して子どもたちをケアします。
職員と円滑なコミュニケーションがとれなかったり、自分のやり方に固執したりなど、協調性がない人は、乳児院の仕事は向いていないでしょう。
すぐに感情的になる人
感情に左右されやすい人は、乳児院の仕事が向いていないといえます。
乳児院で過ごしている子どもたちは、さまざまな事情で保護者と離れて暮らしているため、寂しさや不安を抱えています。
そのため、感情的になりやすい人は、子どもたちに悪い影響を与えてしまうリスクも。
とくに乳幼児は、周りの大人の感情や行動に敏感に反応します。
乳児院では突発的に問題が発生することもあり、感情的になってしまうと適切な判断ができなくなります。
感情の波が激しい人や、冷静に行動できない人は乳児院で働くのは難しいでしょう。
体力に自信がない人
体力に自信がない人、体調を崩しやすい人は乳児院の仕事が難しいです。
子どもと関わる仕事は、抱っこやおんぶ、一緒に遊ぶため、体力が必要になります。
とくに乳児院は、夜勤や長時間のシフト勤務が多いため、不規則な勤務時間に適応できないと心身の不調につながる可能性があるでしょう。
乳児院には看護師がいるの?
保育園と違って24時間、乳幼児のケアをおこなう乳児院では、子どもたちの急な体調の変化が起こることもあるでしょう。
そのため「乳児院に看護師はいるのか」気になっている保育士さんもいるかもしれません。
結論をお伝えすると、乳児院には看護師が配置されており、子どもたちの健康管理や、体調不良時の投薬サポートなどをおこないます。
厚生労働省では、乳児院で働く看護師の配置基準を以下のように定めています。
子どもの年齢 | 子どもの人数と看護師の人数 |
2歳未満児 | おおむね1.7人につき1人以上必要 |
2歳以上児 | おおむね2人につき1人以上必要 |
満3歳以上児 | おおむね4人につき1人以上必要 |
なお、乳児院は他の施設よりも養育時間が長いため、保育士や看護師の最低基準の見直しが検討されているようです。
SIDS(乳幼児突然死症候群)の対応、夜間の緊急時、災害時対応など、夜勤体制を強化するために、乳児院の配置基準が見直されれば、下記のように変わる可能性があります。
子どもの年齢 | 子どもの人数と看護師の人数 |
2歳未満児 | 1人につき1人以上必要 |
2歳以上児 | おおむね2人につき1人以上必要 |
乳児院の子どもたちが、今以上に安心して生活を送るためには、看護師や保育士など、スタッフの人数を手厚くしていく必要があります。
人数を手厚くすることは、職員1人ひとりの負担軽減や、働きやすさにもつながるため、今後はより働きやすい職場が増えていくことが期待できるでしょう。
参考:
厚生労働省「社会的養護に係る児童福祉施設最低基準の当面の見直し案」
厚生労働省「乳児院の課題」
乳児院で働くために
「乳児院で保育士として働くためには、どうすればいいの?」という方もいるかもしれません。ここでは、押さえておきたいポイントを3つご紹介します。
必要な資格・役立つ資格を取得する
前述したとおり、乳児院で働くためには資格が必要となります。
中には、資格がなくても働ける施設もあるようですが、資格を持っている方が活躍の場が広がるでしょう。
すでに保育士資格をもっている方は、すぐに現場で働くことが可能ですが、活かせる資格を追加で取得するのも1つです。
たとえば、心理士や児童福祉士、アートセラピー資格、音楽療法士資格などの資格をもっていれば、子どもたちのケアをより効果的におこなえるでしょう。
また、就職・転職活動でも、即戦力として採用されやすい可能性があります。
乳児保育に関する知識やスキルを身につける
乳児院で働くためには、発達の特性や適切なケア、健康に関する知識や対応など、乳児保育に関する知識やスキルが必要になります。
そのため、前述したように、活かせる資格を取得したり、研修に参加して専門知識のアップデートをおこなったりするのもおすすめです。
「乳児院での働き方があまりイメージできない」「乳児院で子どもと関わる経験をしたい」という方は、乳児院の見学やボランティアに参加してみるのも1つかもしれません。
なお、保育園で0歳児〜2歳児のクラスを担当したことがある方や、保育士のキャリアアップ研修で「乳児保育」を受講した方は、経験を活かして働けるでしょう。
自分に合った乳児院の求人を探す
乳児院で働きたい方は、自分に合った求人を探しましょう。
乳児院の求人を探す方法は、次のとおりです。
- 保育士専門の求人サイトを利用する
- 保育士専門の転職エージェントを利用する
- 厚生労働省が運営するハローワーク(公共職業安定所)に通う
- 乳児院のホームページをチェックする
- 自治体のホームページをチェックする
一方で、乳児院の求人は、保育園に比べて少なめなので、限られた求人の中から自分に合う乳児院を探すのは難しいかもしれません。
限られた時間の中で、効率よく乳児院の求人を探すなら、「保育士の求人サイト」や、「保育士専門の転職エージェント」を利用するのがおすすめです。
とくに、保育士専門の転職エージェントなら、応募書類の準備や面接の練習なども手厚くサポートしてもらえるため、働きながら転職活動する場合もスムーズに進められるでしょう!
乳児院で働くには?まとめ
乳児院で働くために必要な資格や、保育士の仕事内容などを詳しくご紹介しました。
乳児院で働く保育士は、子どもたちの成長を見守り支えながら、未来へとつながる大切な役割を担います。
信頼関係を築くのが難しかったり、関わり方に悩んだりと、大変な場面もたくさんありますが、子どもたちの未来に大きな影響を与える乳児院の仕事は、大きなやりがいがあります。
「子どもたちに寄り添って温かいサポートをしたい」、「保育士経験を活かして保育園以外の職場で働きたい」という方は、乳児院の仕事も視野に入れてみてはいかがでしょうか?
保育士人材バンクでは、乳児院を含め、保育士が活躍できる求人を多数ご紹介しています。
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