「インクルーシブ保育」という言葉をご存じでしょうか? インクルーシブ保育は、子どもがさまざまな理由で線引きされずに、同じ空間で過ごす保育として近年注目されています。
実際にインクルーシブ保育を取り入れている保育施設では、どのような活動を行っているのでしょうか。また、総合保育との違いも気になるところですね。今回はインクルーシブ保育について深掘りし、実施例や国の動向などについても解説します。
目次
インクルーシブ保育とは?
インクルーシブ保育とは、子どもの年齢や国籍、障がいの有無などに関係なく、すべての子どもを受け入れて一緒に過ごす保育のことです。「すべてを含んだ」「包括的な」という意味を持つ「インクルーシブ(inclusive)」の文字通り、子どもをさまざまな理由で線引きせずに、それぞれの個性を認め合う環境づくりを目的としています。
統合保育との違いって?
総合保育とは、障がいのある子どもと障がいのない子どもが同じ環境で過ごす保育のことです。しばしばインクルーシブ保育と混同されますが、根本の考え方に違いがあります。
同じ場所で過ごしながら、互いに望ましい影響を与えるという考え方に基づいているのが総合保育の考え方です。障がいの有無は区別されており、障がいのある子どもが必要に応じて支援を受けます。
一方、インクルーシブ保育は、すべての子どもに必要な支援がある考え方です。あらかじめ、多様なケアやサポートができるように環境や人材を用意するため、障がいの有無での区別はありません。障がいがあっても無くても必要な支援は行い、どんな子どもに対しても包括的に保育することを目指しています。
インクルーシブ保育はどのくらい広まっているの?
現在の保育業界は、総合保育の考えが先に浸透している部分があり。インクルーシブ保育も徐々に普及しているものの、全体として浸透しきっているとは言えない状況です。
インクルーシブという言葉や考え方は、もともとは「インクルーシブ教育」という教育分野から広がってきた言葉でした。以前は、障がいのある子どもは別の学校や施設で学ぶのが一般的でしたが、1993年には同じ学校内に特別支援学級を設置し、支援が必要な時間に「通級」できる制度が導入されています。
現代の教育現場では、障がいの有無に限らず、生活や学習に困難が生じている子どもすべてに特別支援教育が広がっていくべきだとの考えもあります。正しい知識の浸透や専門性の高い人材、環境整備など課題は残されていますが、インクルーシブ教育は国が推進しているシステムであり、今後のスタンダードになっていく可能性があるでしょう。
この流れは、いまは総合保育が一般的な保育業界にも広がっていく可能性があります。また、園全体としての方針がなくても、保育士個人がインクルーシブ保育について学ぶこともできます。これまでの「当たり前の視点」とは異なる保育を学んでみましょう。
インクルーシブ保育の遊び方や実践例のご紹介
基本的にインクルーシブ保育には決まった方法がなく、各保育施設の方針ややり方に委ねられています。すべての保育をインクルーシブ保育で行っている保育園もあれば、一部の時間に取り入れたり、職員に考え方を教えたりと導入の仕方はさまざまです。そのなかでも、実践例の多い活動をいくつかご紹介します。
子どもが自由に決定できる保育
活動に参加するしないの決定や、1日をどんなふうに過ごすのかを本人が決められるのもインクルーシブ保育といえます。一般的な保育園では、設定された環境や活動に対し、保育士は子どもたちが参加できるように支援や呼びかけをします。しかし、子どもの性格や障がいの特性によっては、参加するのが難しいこともめずらしくありません。自分の本心や決定に自信が持てるようになり、主体性と同時に他者の意見を尊重する力にも繋がるでしょう。
バイリンガル保育
地域によっては外国籍の方や外国にルーツをもち、日本語が不得意な子どももいることでしょう。さまざまな国の子どもを受け入れ運営している保育園では、バイリンガルスタッフを積極的に雇い支援の受け皿を広げています。子どもたちは生活していく中で、いろいろな国籍や人種、言語があることを当たり前に認識していきます。多様性を自然に学べるのが特徴です。
年齢に関係のない自由な縦割り保育
縦割り保育とは、どの年齢の子どもも同じ空間で遊ぶ活動のことです。また、施設全体を自由に行き来できることもあれば、園外活動や自由遊びの時間に取り入れたりするこパターンもあります。年齢に関係なく自分が好きなお友だちと好きなことをして過ごします。「〇歳ごろには、△△できるはず」「年長だから年下の見本になる」といった固定概念に囚われず、各々が自分のできることをできる範囲で取り組めるのがメリットです。
インクルーシブ保育についての国の動向
インクルーシブ保育を実施している保育園は以前からあったものの、国としての明確な方針はこれまで打ち出されていませんでした。
しかし、厚生労働省が2021年に実施した「地域における保育所・保育士等の在り方に関する検討会」のなかで、インクルーシブ保育について次のように触れています。
・人口が減少していく今後の社会では、多様なニーズに効率的・効果的に応えていくため、保育施設の設備や職員を有効に活用すべきである。
・保育施設と児童発達支援のサービスを一体化させ、職務の兼務や設備の共用を可能にするべきである。(ただし、必要な人員や面積を確保し、子どもの保育に支障が生じない場合を前提とする)
※参考:厚生労働省「地域における保育所・保育士等の在り方に関する検討会」
保育園と児童発達支援の一体的な支援とは?
※参照:厚生労働省「子ども・子育て一般施策等への移行等の現状について」
現行の制度のままでも、保育園と児童発達支援は同じ施設で分かれた環境であればそれぞれ保育・療育を行うことは可能です。
すでにインクルーシブ保育を行っている保育施設はありますが、より多くの保育施設が多様な家族や子どもを受け入れやすくするために策を投じていくべき、というのが国の考えとして、検討されていました。保育施設と児童発達支援の保育士がともに保育・療育を行う場合は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」の見直しが必要となります。
多様なニーズを持つ子どもを受け入れる場合、保育士が身に付けるスキルや専門知識も幅広いものになっていくでしょう。今後は、保育士の研修のあり方や人材不足に対する対応策が気になるところです。
障がい児に対する支援が広がっている
幼児や児童を対象とした障がい福祉サービスの利用者は、近年増加傾向にあります。厚生労働省が放課後等デイサービスと児童発達支援の利用者推移をまとめた以下の資料をご覧ください。
参照)厚生労働省「児童発達支援・放課後等デイサービスの現状等について」
<利用者数の推移>
平成24年度 | 令和元年度 | |
放課後等デイサービス | 54,819人 | 216,848人 |
児童発達支援 | 57,929人 | 122,441人 |
その他サービスを含めた全体 | 116,309人 | 345,032人 |
参照)厚生労働省「児童発達支援・放課後等デイサービスの現状等について」
障がい福祉サービス全体での利用者が数年で約1.5倍になっていますが、とくに放課後等デイサービスの利用者数が大きく伸びています。少子化が進み、子どもの人数全体が減っている中の推移だと考えると、いかに障がい児に対する支援が求められているのかが分かります。
世の中に福祉サービス自体が増えてきたということで、子どもがより安心して過ごせる選択肢を掴みやすくなります。以前よりも障がいを持った子どもへの支援サービスが充実し、「子どもの過ごす環境が選べるようになってきた」という点は注目したいところです。
障がい児と関わりたいならどんな仕事がある?
子どもとの関わりで大切なことは、障がいの有無に関わらず基本的には同じです。子どもに関係するたくさんの知識やスキルは保育施設でも十分に学べますが、「もっと障がいに関する専門的な分野のスキルを身に付けたい」とお考えの方は、次の仕事も視野に入れてみましょう。
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスは、6~18歳までの小・中・高校生を対象とした通所施設です。コミュニケーションや身の回りの自立、学習、就労の援など社会生活に必要な知識やスキルを身に付けられるようサポートを行っています。
>>【2023年度最新】放課後等デイサービスとは?働ける資格や人員配置を徹底解説!仕事内容、向いている人もご紹介
児童発達支援
児童発達支援とは、発達障がいをはじめ、さまざまな障がいを持つ子どもを支援する通所施設です。0~6歳までの未就学児を対象に、身辺自立や身体機能の向上などの支援を行っています。
医療型児童発達支援
医療型児童発達支援は、児童発達支援の機能に医療の提供が加わった施設です。医学的な管理や指導のもと、基本的な動作や知識の獲得を目指します。身体的な障がいを持ち、医学療法などや医学的管理下などでの支援が必要であると認められた子どもが対象です。
インクルーシブ保育まとめ
インクルーシブ保育を実践するには、専門性の高い人材を増やし多様なニーズに応えられる環境を用意する必要があります。比較的まだ新しい言葉であるものの、インクルーシブ保育を導入しやすくする国の施策も話し合われるようになってきました。多様性を理解し、様々な要因で区別なく子どもたちを受け入れるインクルーシブ保育の考え方は、今後広がりを見せていくでしょう。
保育のあり方が幅広くなれば、保育士も自分の考えを問われるようになります。自分にマッチした環境で働くために、「自分がどんな保育をしたいか」を見つめ直してみましょう。
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