近年、日本の保育現場で広まってきている『保育のドキュメンテーション』。
保育の見える化をおこなうことで、保育の質を向上させる手法の1つです。
注目されているといっても、導入している保育園が少ないため、保育士さんの中には「聞いたことがない」という方もいるかもしれません。
そこで本記事では、ドキュメンテーションのメリットやデメリット、保育に活かせる年齢別の例もご紹介します。
目次
保育のドキュメンテーションとは?
保育のドキュメンテーションとは、子どもの活動を写真・動画・音声・文字などで記録するというものです。
もともと、イタリアが発祥の幼児教育方法の1つです。
子どもたちの姿を継続的に記録することで、「子どもの興味や関心、感性がどこに向いているのか」を見える化できます。
子どものリアルな姿をベースに保育を組み立てていけるので、保育の質向上にもつながります。
また、保護者に子どもたちの姿や成長を伝える手段としても役立ちます。
ドキュメンテーションを導入している保育園では、園内研修の1つとして活用している場合が多いようです。
【年齢別】保育ドキュメンテーションの例
ここからは、年齢別にどのようなポイントで、保育ドキュメンテーションを作成すればいいのか具体例をご紹介します。
ドキュメンテーションの作り方が分からなくて悩んでいる方は、参考にしてみてください。
0歳
0歳児の保育ドキュメンテーションで、観察したいポイント例は次のとおりです。
- 成長記録・・・身長体重の記録、離乳食やミルクの摂取量と時間
- 動きの発達・・・首すわり、寝返り、お座り、ハイハイなどの写真や動画
- 表情や反応・・・笑った顔や泣いた顔、音や光、動きに対する反応の様子
記録する際は、その日の活動内容を記録して、子どもが初めて経験したことや、どのような反応を示したのか、表情や動きなどを具体的に記載するのがポイントです。
少し前にはできなかったことが、急にできるようになる年齢なので、日々の些細なことをできるだけ細かく記録すると、子どもの成長や適切な関わり方が見えてきます。
1歳
1歳児の保育ドキュメンテーションで、観察したいポイント例は次のとおりです。
- 言葉の発達・・・初めて話した言葉や、新しく言葉を覚えた場面を記録する
- 歩行の発達・・・伝い歩きやよちよち歩き、1人歩きの様子
- 社会的行動・・・クラスの友だちとの交流、保育士や保護者との関わり方
記録する際は、日々の活動の様子(活動内容や食事の様子)や、お気に入りの遊びやおもちゃなどを残します。
1歳は日々できることが増えていくので、“初めてできたこと”のエピソードを具体的に記録するのが大切です。
2歳
2歳児の保育ドキュメンテーションで、観察したいポイントの例は次のとおりです。
- 言葉・言語の発達・・・「ワンワンいた」などの2語文、新しい単語を使う様子・場面
- 自立行動・・・トイレトレーニング、自分で着替えや食事ができるようになった様子
- 社会的行動・・・自由遊びや友だちとのごっこ遊びの様子
2歳になると、シールを貼ったり、粘土をこねたり丸めたり、クレヨンでイメージしたものを描いたりなど、できる動作が増えます。
記録する際は、絵や工作など作品の写真や、その時の様子、何を描いたのか聞いたときの反応などを細かくメモするのがポイントです。
友だちとの交流も増えてくるので、印象的なエピソードを具体的に記録するとよいでしょう。
3歳
3歳児の保育ドキュメンテーションで、観察したいポイント例は次のとおりです。
- 言語発達・・・質問に対しての答え方、自分の欲求を言葉で伝え方や様子
- 遊びの様子・・・簡単なゲームやごっこ遊び、創作遊びの内容や様子、気付き
- 社会性の発達・・・友だちと協力やルールのある遊びをするときの様子
3歳は、友だちとの関わりが増えてくる時期です。同時に自己主張する力が育つ時期なので、言い合いやケンカが見られる場面も。
葛藤もありながら、気付きや発見、工夫など、友だちとのやりとりの中で、子どもの成長が感じられるエピソードを記載しましょう。
また、できる遊びの幅も広がるため、興味をもったものや、友だちとの交流の様子、制作物の写真なども記録するのがおすすめです。
4歳
4歳児の保育ドキュメンテーションで、観察したいポイント例は次のとおりです。
- 認知発達・・・数や文字への関心や感覚、パズルなど問題を解決する時の様子
- 創造的な活動の様子・・・工作や絵画、ダンスなど表現活動をする様子
- 社会性の発達・・・ルールのある、役割分担がともなう活動での様子や気付き
4歳になると、自分の気持ちや動きを出しながら、友だちと一緒に遊ぶ楽しさを感じられるようになります。
時には意見がぶつかりながらも、友だちの遊びや考えを尊重し、自分たちで解決できるようにもなります。
そのため、長期的なプロジェクト活動にスポットを当てて、テーマ選定から完成までのプロセスを写真や動画、メモなどで記録するのがおすすめです。
コミュニケーションがとれるようになるので、子ども自身が感じたことや考えたことを、インタビュー形式で記録するのも1つの方法です。
5歳
5歳児の保育ドキュメンテーションで、観察したいポイント例は次のとおりです。
- 学習準備・・・ひらがなや数字の練習、簡単な読み書きや計算の様子
- リーダーシップの発揮・・・グループ活動での関わり方や、仲間を助ける様子
- 自己管理能力の発達・・・自分で計画を立てて、考えて行動する様子
5歳になると、就学に向けての準備を進めていきます。
自分で考えて行動する様子や、自分の考えを相手に伝える様子など、グループ活動の中での成長の様子を細かく記録していきましょう。
また、子どもの成長をまとめたポートフォリオを作成して、保育士のコメントや、子ども自身の振り返り(感想や気付き)なども一緒に記録するのがおすすめです。
ドキュメンテーションのメリット
保育ドキュメンテーションを取り入れるメリットは次のとおりです。
- 子どもの成長が目に見えて分かる
- 自分の保育を客観的に振り返ることができる
- 保護者とコミュニケーションがとりやすくなる
ドキュメンテーションの一番のメリットは、子どもの成長が目に見えて分かることです。
継続的に記録を残すことで、どのように成長したのかが視覚的に分かるため、保育の振り返りや次の活動に活かすことができます。
保育の質を高めるうえで、計画・実践・評価をおこなうことは大切なことですが、ドキュメンテーションを活用することで、改善点や課題がより見える化できるため、結果的に保育士としてのスキルアップにもつながります。
また、ドキュメンテーションがあると、保護者とコミュニケーションがとりやすくなるのもメリットです。子どもの様子や成長を写真などで伝えることで、園への理解や、連携にもつながります。
ドキュメンテーションのデメリット
保育ドキュメンテーションを導入するうえで発生するデメリットは、保育士の負担が増えることです。
保育士は日々多くの業務を抱えているため、そこにドキュメンテーションの作成が加わると、保育士の負担が増えかねません。
とはいえ、ドキュメンテーションは継続することが重要なので、業務内容の見直しや、役割分担をするなどして負担が増えない工夫が必要でしょう。
【施設別】ドキュメンテーションの活用例
最後に、保育園以外での施設別ドキュメンテーションの活用例をご紹介します。
幼稚園
幼稚園でドキュメンテーションを活用する場合は、各活動や遊び、行事を通して、子どもが他の子どもとどのように関わるか、どのような遊びを好むかを記録するのがおすすめです。
絵本の読み聞かせや、工作、歌、運動遊びをする際の、活動への集中力や成果物を記録しましょう。
また、その日の活動内容を写真と記録し、活動のねらいや子どもの反応もメモするのがよいでしょう。
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスでドキュメンテーションを活用する場合は、宿題や学習課題に対しての集中力や理解度、サポートの必要性を記録するのがおすすめです。
グループ活動や協力作業で、周りの友だちとどのようにコミュニケーションをとっているか、ルールを理解できているかなど、より具体的に記載しましょう。
個別の目標に対して、達成度や必要な支援内容を記録することで、質の高い支援ができるようになります。
児童発達支援
児童発達支援でドキュメンテーションを活用する場合は、個別療育や集団療育において、子どもの反応や取り組み姿勢、進捗状況を記録するのがおすすめです。
その日の療育内容や活動の目的、子どもの反応、成果を写真やメモで記録することで、具体的に子ども1人ひとりが必要とする支援が見えてくるでしょう。
保育のドキュメンテーションまとめ
保育ドキュメンテーションを活用することで、子どもを見る視点が育つため、保育士としてのスキルアップにつながります。
保育を見える化することで、今まで気づけなかった“子どもの姿”や“成長”を実感する機会にもなるでしょう。
しかし業務量が増えることで負担になってしまっては本末転倒なので、保育士さんのやりやすい方法で無理なく導入するのがおすすめです。
保育のドキュメンテーションを活用して、日々の子どもの成長を楽しみつつ、保育士としてのスキルアップを目指してみてはいかがでしょうか?