保育士は、子どもたちの成長に携われるやりがいのある仕事です。
しかし、どんなにやりがいのある仕事でも、キャリアアップや給料アップがしづらい環境だと、長く働き続けるのは難しいものですよね。
そこで、2017年に厚生労働省によって制定されたのが「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」です。
これまでは、新型コロナウィルスの影響もあり、要件の適用が遅れていましたが、2023年度から段階的に必須化となりました。
今回は、そんな「保育士のキャリアアップ」について詳しくご紹介します。
役立つ資格やキャリアアップ研修についてもご紹介するので、「保育士としてキャリアアップしたい」「給料を上げる方法を知りたい」という方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
参考サイト:内閣府 子ども・子育て会議 「資料3 処遇改善等加算IIに関する研修受講要件について 」
目次
保育士のキャリアアップの対象者や内容、要件は?
前提として、保育士の処遇改善には「処遇改善等加算Ⅰ」「処遇改善等加算Ⅱ」「処遇改善加算Ⅲ」の3つの種類があります。
保育士のキャリアアップ研修は、「処遇改善等加算Ⅱ」に該当し、「保育士の専門性向上と処遇改善を目的とした制度」です。
これまで、保育園の役職は「主任保育士」と「園長」しかありませんでしたが、2017年4月に制定された処遇改善等加算により、新たに以下3つの役職が加わりました。
- 職務分野別リーダー
- 専門リーダー
- 副主任保育士
研修科目や対象者、内容、要件については以下のとおりです。
保育士のキャリアアップ①【研修科目】
- 乳児保育
- 幼児保育
- 障がい児保育
- 食育・アレルギー
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
- 保育実践
- マネジメント
保育士のキャリアアップ②【職務分野別リーダー】
- 約3年以上の経験年数
- 担当する職務分野(上記①~⑥)の研修を修了
- 修了した研修分野にかかわる職務分野別リーダーとしての発令*
(食育・アレルギーリーダー、乳児リーダーなど……)
*同じ分野を複数の職員に発令することも可能
保育士のキャリアアップ③【専門リーダー】
- 約7年以上の経験年数
- 職務分野別リーダーを経験
- 研修分野の中から4つ以上の研修を修了
- 専門リーダーとしての発令
保育士のキャリアアップ④【副主任保育士】
- 約7年以上の経験年数
- 職務分野別リーダーを経験
- 研修分野⑧と3つ以上の研修を修了
- 副主任保育士としての発令
参考サイト:内閣府子ども・子育て本部「平成30年度子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料」
参考サイト:内閣府子ども・子育て本部「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業の実施について」
保育士のキャリアアップは何年目から可能?
「保育士のキャリアアップは何年目から可能になるの?」と気になっている方もいるでしょう。
厚生労働省は、キャリアアップ研修を受講する目安として、「経験年数3年、7年と基準」を設けています。
そのため、保育士として現場で経験を積んで、だいたい3年経った頃にキャリアアップを目指すのが一般的ですが、施設や法人によってはその限りではないこともあります。
なお、キャリアアップが目指せるのは、正規職員のみならず、パートタイムや派遣として働く方も対象になる場合もあります。
保育士のキャリアアップに役立つ資格(国家資格)は?
ここまでは、厚生労働省が定めるキャリアアップを中心に触れてきましたが、ここからは、個人で取得できる資格を2種類ご紹介します。
保育士のキャリアアップに役立つ国家資格もご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
保育士のキャリアアップに役立つ資格①【社会福祉士】
国家資格である「社会福祉士」は、保育士のキャリアアップに役立つ資格です。
社会福祉士はソーシャルワーカーとも呼ばれ、日常生活を送る中で困難を抱えている「児童」や「高齢者」にアドバイスや支援をおこないます。
一方、保育士は子どもたちの保育をはじめ、保護者の育児相談や保育指導をおこなうのが仕事です。
資格は異なりますが、保育士も社会福祉士も知識や技術が似ている部分があるため、両方の資格を持つことで、より専門性の高い支援が可能になります。
また、保育士が社会福祉士の資格を持っていると、転職先の選択肢が増えたり、退職することなくキャリアチェンジできたりするのもメリットです。
ダブルで資格を持っていると、医療機関や介護施設への転職も可能になるため、活躍の場が広がります。
さらに、児童養護施設や、児童自立支援施設、母子生活支援施設、助産施設などは、社会福祉士と保育士2つの求人を募集しているケースもあります。
その場合は、退職することなく、法人内で2つの資格を活かして活躍できるでしょう。
保育士のキャリアアップに役立つ資格②【幼稚園教諭】
教育と保育を一体的におこなう施設「認定こども園」では、保育士資格と幼稚園教諭免許の両方を持っていることで活躍できます。
そのため、キャリアアップを考えている保育士さんは、幼稚園教諭免許も取得するのがおすすめです。
内閣府の資料によると、認定こども園は2,008年の時点では105園だったのが、2021年は8,000園以上も増加しています。
このように、認定こども園は年々増加しているため、幼稚園教諭免許をもっている保育士さんは今後も活躍の場が広がるでしょう。
参考サイト:内閣府「認定こども園の数等について」
保育士のキャリアアップ、給料や年収は上がる?
保育士はキャリアアップを目指すことで、給料や年収も上げられます。
ご紹介したように、保育園ではこれまで、「主任保育士」と「園長」しか役職がありませんでした。
しかし、2017年に「保育士等キャリアアップ研修」が創設されてからは、そこに「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」の3つの役職が加わりました。
それにより、若手や中堅保育士も研修を受けることで、キャリアアップを目指せる仕組みになりました。
キャリアアップを目指せば、「月額5,000~40,000円」の給料アップが見込めるので、それにともない年収も上がります。
保育士のキャリアアップ、手当や処遇改善は?
前述したように、保育士はキャリアアップ研修を修了して要件を満たすことで、「処遇改善Ⅱ」の手当が支給されます。
ただし、注意点として、処遇改善手当は国から個人ではなく、国から保育施設へ一律に支給される仕組みです。
そのため、施設によっては、個人へ支給される加算額が異なる場合もあります。
具体的な処遇改善手当は以下のとおりです。
キャリアアップした場合、どれくらいの処遇改善手当が支給されるかは、勤めている保育施設へ確認するのがおすすめです。
なお、保育施設によっては、処遇改善手当とは別で「役職手当」を支給している場合もあるので、確認してみるとよいでしょう。
また、冒頭にも触れましたが、処遇改善加算は2023年8月現在、「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」まであります。
キャリアアップ研修はⅡになりますが、ⅠとⅢは以下のような仕組みです。
保育士のキャリアアップ研修【処遇改善加算Ⅰ】
- 勤務年数に応じて毎月12,000~38,000円給料がアップする
- 対象はパートや派遣保育士など非常勤を含む全職員
- 非常勤の場合は1日6時間以上かつ月20日以上勤務する職員が対象
- 期間は2013年~現在も継続中
- 対象施設は「認可保育園」
保育士のキャリアアップ研修【処遇改善Ⅲ】
・毎月9,000円給料がアップする
・対象はパートや派遣保育士など非常勤を含む全職員
・期間は2022年2月~現在も継続中
・対象施設は認可保育園など
処遇改善加算ⅠとⅢに関しても、個人へどれだけ分配されるかは保育施設によって異なります。
参考サイト:内閣府子ども・子育て本部「技能・経験に応じた保育士等の処遇改善について」
参考サイト:内閣府子ども・子育て本部「平成30年度子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料」
参考サイト:内閣府子ども・子育て本部「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業の実施について」
参考サイト:内閣府子ども・子育て本部「技能・経験に応じた処遇改善等加算Ⅱの仕組み」
【役職別】保育士のキャリアアップの仕方
ここからは、保育士のキャリアアップの仕方について、「役職別」にご紹介していきます。
役職別保育士のキャリアアップの仕方①【アルバイト】
アルバイトで働く保育士がキャリアアップするためには、「認可保育園」で経験を積むのがよいでしょう。
「処遇改善加算Ⅰ」は、勤務時間や日数をクリアしていれば、アルバイトの保育士でも対象となる場合があります。
支給金額や分配方法は園によって変わってきますが、経験数があると時給とは別に手当が支給される可能性があります。
他にも、キャリアアップ研修を受講するのも一つです。
キャリアアップ研修も、雇用形態に関わらず受講可能の場合があります。
研修の受講日時や時間は決まっているため、予定をあわせるのが難しい方もいるかもしれませんが、可能であれば受講したい旨を保育施設に伝えてみるとよいかもしれません。
役職別保育士のキャリアアップの仕方②【パート/契約/派遣】
パート、派遣、契約社員として働く場合も、アルバイト同様に、「認可保育園」で経験を積むのがおすすめです。
また、キャリアアップ研修を受講したい旨を職場に伝えるのも一つでしょう。
キャリアアップ研修は一度受講すれば、他の県へ引越ししたとしても、その効力が失われることはありません。
保育士として復職や転職する際にも、これまで積んできたキャリアとして活かせるので、機会があれば積極的にキャリアアップ研修を受講するのがおすすめです。
役職別保育士のキャリアアップの仕方③【一般/担任】
「認可保育園」で働く一般保育士のキャリアアップは、経験年数によって目指す方向性が異なります。
経験年数が「2年以内」の方は、まずは3年以上続けて保育士としての知識や技術を身に着けながらキャリアアップ研修を受けていきましょう。
キャリアアップ研修を受講すると、修了した研修分野にかかわる「職務分野別リーダー」の役職につける場合があります。
また、経験年数が7年以上ある方は、キャリアアップ研修8つのうち、4つの専門分野を受講することで、「専門リーダー」を目指してみましょう。
さらに、「専門リーダー」の役職についたら、次はマネジメント研修を修了することで、「副主任保育士」を目指すことができます。
このように一般保育士は、経験年数に応じて段階的にキャリアアップを目指せます。
なお、経験年数を積むことで、「処遇改善加算Ⅰ」の手当もアップするので、さらに収入アップも狙えるでしょう。
役職別保育士のキャリアアップの仕方④【主任(副主任)】
「認可保育園」で働く主任保育士がキャリアアップするためには、主任保育士としての経験を積んで、保育園の園長や副園長を目指すのがよいでしょう。
主任保育士や園長は、必要な資格や研修はとくにありません。
しかし、専門的な高い保育知識と経験が必要とされています。
また、保育園の園長はマネジメント能力を身につけて、法改正や制度に関する理解を深める必要があるでしょう。
そのため、行政の園長向け研修や外部のマネジメント研修などへ積極的に参加するのがおすすめです。
役職別保育士のキャリアアップの仕方⑤【保育園の園長】
「認可保育園」で働く保育園の園長がキャリアアップを考える場合、「将来的にどうなりたいか?」によって方法が変わってくるでしょう。
たとえば、同じ系列の他園に園長として異動する方法もありますし、今の園を退職して転職先で一から保育園の園長として働く方法もあります。
また、複数の園を運営している法人であれば、マネージャーなどの役職も選択としてでてくるでしょう。
ほかにも、園長経験を活かして、一から自分で保育園を開園する方もいるかもしれません。
系列の保育園や転職先で園長を続けたいという思いがあるのであれば、今の保育園で園長としての経験を積むのが大切です。
また、一から自分で保育園を開園する場合は、「資金調達」や「経営」に関する法律、集客方法など、雇われ園長とは違った目線で知識を身につける必要があるでしょう。
保育士や主任保育士などと比べると、「保育園の園長はゴールが見えにくい」という方もいるかもしれません。
そのため、今後自分がどのように活躍したいかを明確にして、それに向けて行動するのがよいでしょう。
障がい児保育のキャリアアップは?
保育士は、児童発達支援センターや児童発達支援事業所など、障がい児保育施設でも働けます。
そこで働く場合、どのようにキャリアアップを目指せばいいのか悩む方もいるかもしれません。
厚生労働省が出している資料によると、近年、保育園では発達がゆっくりな子どもや、軽度の障がいをもつ子どもの受け入れが増加している傾向にあります。
一方、保育士を加配する必要性や、障がいに対する専門知識が必要なことなど、「障がい児保育」に課題を抱えるケースも少なくありません。
そこで、重宝されるのが、障がい児保育の専門知識をもった保育士や、障がい児保育施設で経験がある保育士です。
このあと詳しく説明しますが、保育士等キャリアアップ研修分野の中にも「障がい児保育」が含まれています。
もし、障がい児保育施設で働いていて、キャリアアップに悩んでいる方は経験を活かして、保育園で働くのも一つです。
参考サイト:内閣府ホームページ「障害児保育の推進 厚生労働省においては」
保育士のキャリアアップ研修とは?
繰り返しになりますが、保育士のキャリアアップ研修で学べる項目は以下の8分野です。
- 乳児保育
- 幼児保育
- 障がい児保育
- 食物・アレルギー対応
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
- マネジメント
- 保育実践
研修時間は1分野につき15時間以上と定められており、おもに、都道府県が指定した研修機関にて受講する必要があります。
キャリアアップ研修を受講する方法は以下のとおりです。
- 保育団体などが主催の講義に参加する
- 指定保育士養成施設の講義に参加する
- 「eラーニング」などオンラインで受講する
なお、保育士のキャリアアップ研修は必ず全員が受講できるわけではないことを理解しておきましょう。
受講の資格はありますが、受講できる人数は園によって決まっている場合があります。
もし、「キャリアアップ研修を積極的に受講したい」と考えている方は、主任保育士や園長にその旨を伝えてみるのも一つかもしれません。
参考サイト:厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドラインの概要」
参考サイト:厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修に係る保育士以外の職員が受講することが 望ましい研修分野及びeラーニング等による研修の実施の促進について 」
保育士のキャリアアップ、転職活動に有利?
保育士のキャリアアップ研修は、受講すると「修了証」がもらえます。
キャリアアップ研修の修了証は「一度取得すればずっと使える」ので、転職する際にも活用できます。
キャリアアップ研修の修了証をもっていることで、自身のスキルを明確にアピールできるため、転職活動を有利に進めることができるでしょう。
採用側にとっても、「専門的な知識を持っている」「〇〇分野を安心して任せられる」と採用するかどうかの判断材料になる可能性があります。
参考サイト:厚生厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドラインの概要」
保育士のキャリアアップ、転職時の履歴書・職務経歴書の書き方は?
キャリアアップを目指して転職する場合は、履歴書や職務経歴書の書き方も意識しましょう。
基本的な書き方は、一般的な書き方と大きな違いはありませんが、いくつか注意点があります。
保育士の履歴書の書き方
保育士の履歴書の免許や資格を記入する欄では、アピールできるものは記載するのがよいでしょう。
たとえば、「ピアノの資格」「絵本専門士」「リトミック指導員」など保育で活かせるものは、積極的に記載するのがおすすめです。
また、保育士キャリアアップ研修を受講している方は、免許や資格欄に「保育士等キャリアアップ研修 修了」と必ず記載しましょう。
保育士の志望動機の欄では、応募する保育園の保育方針と自分の保育に対する考え方を絡めて、ポジティブで分かりやすい内容を書くのがよいでしょう。
エピソードなどを盛り込むことで、説得力のある志望動機になります。
保育士の職務経歴書の書き方
保育士の職務経歴書には、これまで「どのような園で」「どのような業務をおこなってきたか」を分かりやすく記入します。
「保育園の形態」や「職員数」「園児数」などを記入することで、採用担当者がイメージしやすくなります。
また、業務内容には、「何歳児を担当したか?」「経験年数」「係や担当業務」などをできるだけ詳しく書きましょう。
さらに、自己PRを書く際は、「自分がこれまでどのような経験をしてきて、転職後どのように活かせるか?」を意識して書くのがおすすめです。
とくに、転職後に活かせるポイントを書くことで、採用担当者に自分を採用するメリットとしてアピールできます。
転職後、保育士としてキャリアアップを考えている方は、ぜひ意識して書いてみてくださいね!
保育士のキャリアアップのまとめ
保育士のキャリアアップについて詳しくご紹介しました。
保育士のキャリアアップ研修ができたことで、保育士の昇進や処遇改善がしやすくなりました。
とはいえ、職場によっては「研修を受講したくてもできない」「ここではキャリアアップが難しそう」という方もいるかもしれません。
そんな方は、保育士資格や経験を活かして転職するのも一つです。
保育士人材バンクでは、保育士専任キャリアパートナーが、あなたの不安や悩みを伺って、納得のいく求人をご紹介いたします。
「キャリアアップのために転職したい」「今よりも給料がいい園で働きたい」「働きながら効率よく転職活動したい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください!