「現場での保育は好きだけど、体力的に一生続けるのは不安」「保育園の運営側に関わってキャリアアップしたい」そんな保育士さんに新たな選択肢として提案したいのが、保育運営企業における「本社勤務」です。
保育現場の経験を活かしながら、ビジネススキルを磨き保育業界に貢献できる働き方。
本記事では、具体的な仕事内容から、メリット・デメリット、求められるスキル、そして求人の探し方までを徹底的に解説します。
保育士の本社勤務とは?背景と現状
株式会社による保育運営の増加
かつて保育園の運営主体といえば、自治体(公立)や社会福祉法人がほとんどでした。しかし、待機児童問題の解消などを目的として2000年に規制緩和が行われたことをきっかけに、株式会社による保育参入が急速に進みました。
現在では、特定の地域に密着した企業から、全国に数百施設を展開する大手上場企業まで、多くの民間企業が保育業界を支えています。
新たなキャリア本社勤務
施設数が増えれば、現場を統括し、経営を支えるための「本社機能」が必要不可欠になります。そこで生まれたのが、保育士としての経験や資格を活かして企業のオフィス部門で働く、いわゆる「本社勤務」という選択肢です。
現場で子どもたちと直接触れ合うことは減りますが、保育の質を底上げしたり、働く保育士を支えたりすることで、間接的に多くの子どもたちの笑顔を作る、社会的意義の大きな仕事です。
本社勤務のお仕事内容
保育士が民間企業の運営する本社に勤務する場合、主に以下のような仕事をします。
- 総合職
- 事務職
- 企画・開発職
- スーパーバイザー
それぞれの仕事内容をくわしくみていきましょう。
(1)総合職(現場スタート)
特定の業務に限定されず、幅広いキャリアを積むことを前提としたポジションです。「総合職保育士」や「幹部候補」として募集されることもあります。
入社後の数年間(1〜3年程度)を現場の保育士として勤務し、保育の実務や現場の課題を肌で学びます。その後、本人の適性や希望、会社の戦略に合わせて配属が決定します。
「現場のリアル」と「経営の視点」の両方を持つことができるため、将来的には会社の中心メンバーとして活躍することが期待されます。
(2)一般事務・経理職
本社オフィスに常駐し、パソコンを使用したデスクワークを中心に行います。社内の環境を整え、現場の保育士が保育に集中できるようにサポートする「守り」の仕事です。
総務・庶務:備品の発注管理、電話・来客応対、書類のファイリングなど。現場から「おむつが足りない」「遊具が壊れた」といった備品の質問やSOSが来た際に、迅速に対応する窓口にもなります。
経理・労務:保育士の勤怠管理、給与計算の補助、社会保険手続き、行政へ提出する補助金申請の書類作成など。数字を扱うため、正確性とコツコツ取り組む姿勢が求められます。
パソコンスキル(Word、Excel)は必須ですが、特別な資格がなくても、現場経験があれば「現場の状況を察して動ける事務」として重宝されます。
(3)人事・採用職
企業の成長に欠かせない「人材」を採用・育成する仕事です。特に保育業界は人手不足が深刻なため、多くの企業が専門のチームを設けて力を入れています。一般事務とは異なり、社外の人と積極的に関わるポジションです。
- 新卒・中途採用活動:求人原稿の作成、会社説明会の実施、面接日程の調整、応募者との面談などを行います。「この園で働きたい!」と思ってもらうためのプレゼン力が問われます。
- 広報活動:就職フェアへの出展や、企業によってはSNSを使った会社の魅力発信など、マーケティングに近い動きも行います。
- 研修・定着支援:内定者研修の企画や、入社後のフォローアップ面談などを行い、保育士が長く働ける環境を作ります。
元保育士であれば、求職者の不安に寄り添った対応ができるため、非常に説得力のある採用担当として活躍できます。
(4)企画・開発職
企業の成長を牽引する、クリエイティブかつ戦略的なポジションです。単にモノを売るのではなく、保育園という「場」や「仕組み」を創り出す仕事です。
新規園の開発(開発):「どのエリアに保育園が必要か」というマーケティングリサーチを行い、自治体と協議します。土地や建物のオーナーと交渉し、コンセプトの立案、設計会社との打ち合わせを経て、ゼロから新しい保育園を立ち上げます。
事業企画・運営改善(企画):既存園の収支分析を行い、経営改善のプランを練ります。また、「英語教育プログラムの導入」や「ICTシステムの活用」など、保育の質を高めるための新しいサービスや制度を企画・立案することもあります。
(5)スーパーバイザー(SV)
本社勤務の中で、保育士資格や経験が最も活きる花形職種です。担当エリアの5〜10園を定期的に巡回し、マネジメントを行います。
巡回支援:保育の質を確認し、改善点をアドバイスします。
園長・主任のサポート:運営上の悩みを聞き、解決策を一緒に考えます。孤立しがちな園長のメンタルケアも重要な仕事です。
トラブル対応:保護者からのクレーム対応や、行政監査の立ち会いなど、現場だけでは抱えきれない問題を本社側としてサポートします。
ヘルプ業務:現場の人手が足りない時に、保育に入ってサポートすることもあります。
現場を知る先輩として、後輩保育士たちを導く指導力が求められます。
本社勤務ならではの3つの大きなメリット

現場の保育士とは異なる、企業人としてのメリットがあります。
保育士として民間企業で働くのはどうか、検討している方は、ぜひ参考にしてくださいね。
①ビジネススキル・ポータブルスキルの習得
保育現場ではなかなか身につかない、汎用可能なビジネススキルが習得できます。
- PCスキル:Word、Excel、PowerPointなどの操作スキル
- 計数感覚:予算管理、コスト意識、収支バランスの感覚
- 企画・提案力:データに基づいたプレゼンテーションや、プロジェクト推進能力
これらはどの業界でも通用するスキル(ポータブルスキル)であり、将来もし別の業界へ転職する場合にも大きな武器となります。
②キャリアパスの広がりと明確な評価制度
社会福祉法人などの小規模な園では特に「園長」より上のポストがなく、キャリアが頭打ちになることがあります。一方、本部職には別の組織図があります。
- SV→エリア統括→部長→役員
- 採用担当→人事マネージャー
といった具合に、階段を登るようにキャリアアップが可能です。また、評価制度も存在することが多く、成果を出せば給与やポストに反映されやすい環境です。
③ワークライフバランスの安定(職種による)
現場の保育士はシフト制で、早番・遅番や土曜保育がありますが、本社勤務は基本的に「カレンダー通りの勤務(土日祝休み)」であることが多いです。勤務時間も9:00〜18:00などで固定されているため、生活のリズムが整えやすく、友人や家族と予定を合わせやすいという利点があります。
知っておくべき「大変さ」と「求められること」
メリットだけでなく、本社勤務ならではの難しさや、事前に準備しておくべきこともあります。
デスクワークへの適応
「体を動かすのが好き」という人にとって、一日中パソコンに向かうデスクワークはストレスになることがあります。肩こりや眼精疲労、運動不足への対策が必要です。また、基本的なPC操作(ブラインドタッチやビジネスメールの作成)は必須となるため、苦手な方は事前の学習が必要です。
「子ども」との距離
当然ですが、子どもたちと直接触れ合う時間は激減します。「子どもの成長を間近で見守りたい」という想いが強い場合、現場との距離感に寂しさを感じてしまうかもしれません。モチベーションの源泉を「目の前の子ども」から「保育環境の改善」へと切り替える必要があります。
現場と本社の板挟み
特にSV職で顕著ですが、現場からは「現場の状況も知らないで無理を言わないでほしい」と言われ、本社の上層部からは「もっと効率を上げてほしい」と言われる……といった板挟みになることがあります。両者の立場を理解し、調整するコミュニケーション能力とタフさが求められます。
お仕事の探し方
それは、元々の求人数が少ないことに加え、一般的な保育士の仕事募集と混在しやすく、探しにくくなっているためです。
一般サイトでは見つかりにくい理由
- 求人数自体が少ない:保育士数百人に対して、本社スタッフは数人〜数十人です。
- 専門職との混同:一般の転職サイトで検索しても、現場の保育士求人が大量にヒットしてしまい、本社の求人が埋もれてしまいます。
- 非公開求人が多い:新規プロジェクトや幹部候補の募集は、競合他社に知られないよう、一般には公開せずに募集することが多いです。
「保育専門の転職エージェント」が良い理由
本社勤務を目指すなら、ハローワークや求人サイトを眺めるのではなく、保育士専門の転職エージェントを利用するのが最も確実な近道です。
【エージェントを利用するメリット】
- 非公開求人の紹介:ネットには出ていない非公開求人を保有しています。
- 企業ごとの詳細情報:求人票には載らない雰囲気や社内の事情を教えてもらえることがあります。
- 選考対策:現場の面接とは異なり、ビジネススキルを問われる面接になります。応募書類の添削や、想定問答の練習など、プロの視点でサポートしてくれます。
おすすめは「保育士人材バンク」
数あるエージェントの中でも、特に「保育士人材バンク」がおすすめです。本社勤務などの希少な案件が見つかる可能性があり、その他も求人も効率的に探すことができます。
登録は無料で「まずはどんな仕事があるか知りたい」「自分の経験で本社勤務ができるか相談したい」という情報収集だけの利用も歓迎です。
保育士の本社勤務まとめ
保育士の本社勤務は、現場で培った「観察力」や「対人スキル」を、ビジネスという新しいフィールドで活かせる魅力的な働き方です。
【本社勤務のポイント】
- 職種:総合職、一般事務、人事・採用、企画・開発、SVなど。
- メリット:ビジネススキル習得、キャリアアップ、土日休みなど。
- 求められる力:PCスキル、企画力、そして「保育を良くしたい」という熱意。
もしあなたが「保育士としての経験を活かしつつ、新しいことに挑戦したい」と考えているなら、本社勤務は理想的なキャリアチェンジになるでしょう。
チャンスを逃さないためにも、まずは「保育士人材バンク」などの専門エージェントに登録し、あなたに合う求人がないかチェックすることから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、あなたの保育士人生をより豊かにする転機になるかもしれません。
現場での経験を活かし、そのまま「園長」として現場統括の道へ進むこともあれば、本社へ異動して後述する「事務」や「企画・開発」などの部門でマネジメントに関わることもあります。