この記事では、保育士不足の理由やこれからの見通し、解決策などを紹介します。保育士個人ができることもご紹介しますので、チェックしてみてください。
また、この状況を改善するために、国や自治体による保育士や保育園への様々な支援制度が設けられています。
ご紹介する支援制度を上手に活用して「保育士」としての生活をより良くしてみてはいかがでしょうか。
目次
保育士不足はなぜ起きているの?
保育士不足は、長い間、社会的な問題として注目されてきました。
にもかかわらず、なかなか解消しないのは何故なのでしょうか。
厚生労働省「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」の調査結果を見ると、保育士資格を持っている人の約半数が、保育士として働くことを希望していないことが分かります。
出典:厚生労働省「主な人手不足職種に関するハローワーク求職者の免許・資格の保有状況(労働市場分析レポート 第3号)」
また、同調査によると、保育士として働くことを望まないのは、以下に挙げる4つの理由によるものです。
大切な子どもをお預かりする保育のお仕事。常に事故のリスクがあり、相応の責任が付いて回ります。
さらに、賃金や就業時間・休暇といった、労働環境や待遇に不満があり、保育士という仕事を選ばない人も多いようです。
なお、これらの原因が解消された場合、6割以上が保育士として働きたいと回答している状況です。
出典:厚生労働省「主な人手不足職種に関するハローワーク求職者の免許・資格の保有状況(労働市場分析レポート 第3号)」
保育士はどのくらい不足しているの?
では実際に、保育士はどのくらい不足しているのでしょうか。
少し古いデータではありますが、「平成21年度保育士の需給等に関する調査研究報告書」によると、平成29(2017)年度末には、約7.4万人の保育士が不足していると推計しています。
求職者1人あたりに何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」では、令和4(2022)年10月時点で、全国平均で2.49倍でした。
これは、保育士1人につき、2~3件ほどの求人がある計算になります。全職種平均の1.35倍と比べて、高い水準であることがわかります。
保育士不足はいつまで続くの?
保育士不足がいつ解消されるのかを予測するのは難しいですが、少しずつ解消には向かってきています。
先ほども挙げた、全国における保育士の有効求人倍率の推移をみてみましょう。
令和元(2019)年1月の3.86倍をピークに、令和2(2020)年は2.94倍、令和3(2021)年のピークにあたる12月には2.93倍と、年々少しずつ減少しているとわかります。
この傾向が続けば、いずれ保育士不足は解消されるでしょう。
さらに今後は、出生数の減少による影響も大きくなることが予測できます。日本の出生率は減少傾向にあり、ここ数年はより顕著になっています。
令和4年最新の「人口動態統計」によると、2022年に生まれた子どもは約77万人で、統計開始以来、初めて80万人を下回りました。2023年上半期には37万1052人と、2000年以降で最も少なくなっています。
政府による想定と比較すると、10年も早いペースで、急激に少子化が進んでおり、保育園が預かる対象となる子ども自体の数は、確実に減り続けています。
一方で、共働き世帯数が増えている現状もあり、保育ニーズが急速に減ることは考えづらいことを考えると、ゆるやかに保育士不足が改善されていくことが想定されるでしょう。
保育士不足が続いた場合は何が起きるの?
このまま保育士不足が続くと、どうなるのでしょうか。
例えば、以下のようなことが起きる可能性があります。
・待機児童が増える
・子育て世帯が仕事を続けにくくなる
・日本社会全体の労働力が不足する
保育士が足りず、国の定める配置基準を満たせなくなった保育園は、休園・閉園になる可能性もあります。そうなると、その保育園を利用していた親御さんは他の預け先を探さなければなりません。
もちろん保育士もその園で働き続けることができなくなってしまいます。
しかし、もし預け先が見つからなければ、仕事を続けられなくなる可能性も十分あります。このような事態が全国的に増えれば、日本社会全体の労働力不足につながります。
ただでさえ、日本では、人口減少と少子高齢化の影響で、労働力不足だといわれています。今後はさらに、労働力人口が減っていくという予測もあります。
このような状況を考えると、保育士不足は、労働力人口の減少を後押ししてしまうリスクを秘めています。
保育士不足を解消するための国の制度
ここからは、保育士不足を解消するために、現在すでに始まっている制度について、紹介していきます。
国が保育士不足を解消するために、保育園などの事業主を対象に設けている支援策は、主に以下3つです。
・雇用管理改善支援(働く職場の環境改善)
・求人と求職のマッチング支援(再就職)
・能力開発支援(人材育成、就業継続)
1つずつの支援について解説していきます。
雇用管理改善支援(働く職場の環境改善)
1つ目の支援策は、保育士の待遇や労働環境の改善を目指すものです。特に注目しておきたいのが「保育士の処遇改善」。実際の給与金額にも影響します。
これまで国は、主に以下3種類の制度を導入してきました。
処遇改善等加算Ⅰ 処遇改善等加算Ⅱ 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業(処遇改善等加算Ⅲ) |
処遇改善等加算Ⅰ
2015年に設けられた「処遇改善等加算Ⅰ」では、保育園などの施設に勤めるすべての職員の、平均勤続年数から算出された加算率に応じて、補助金が支給されています。
保育園などの事業主は自治体に申請を行い、給付金を職員に支給します。支給額は事業主が判断するため、職員によって異なります。
処遇改善等加算Ⅱ
2017年に設けられた「処遇改善等加算Ⅱ」は、保育士の経験年数に応じた、キャリアパスの仕組みとともに設けられた補助金です。
おもに3年以上の勤務経験を持つ保育士が、定められた要件をクリアしたうえで研修を修了し、各役職に就任すると、月額5,000~40,000円の賃金加算が受けられます。
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業(処遇改善等加算Ⅲ)
2022年2月から設けられた「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」は、保育士や幼稚園教諭を対象に、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるため、事業主に費用補助を行う制度です。
始まった当初は、事業名に「臨時」とある通り、一時的な事業でしたが、2022年10月以降は「処遇改善等加算Ⅲ」として継続している状況です。
国の処遇改善について、よりくわしく知りたい場合には「2023年(令和5年)【最新】保育士の処遇改善手当ての額や支給条件、現状をわかりやすく解説!」が参考になります。
求人と求職のマッチング支援(再就職)
2つ目の支援策は、保育分野の求人と求職者の効果的なマッチングです。
ハローワークに設置している「人材確保対策コーナー」や、社会福祉協議会を通じて設置している「保育士・保育所支援センター」の相談窓口などで、事業主からの相談を受け付け、アドバイスを行っています。
また民間でも保育士向けの転職支援サービスは増えてきています。保育士資格は保育園以外にも幅広い選択肢があるのです。
能力開発支援(人材育成、就業継続)
3つ目の支援策は、保育士としての人材育成とスキルアップに対してです。
主な制度は以下の2つです。
・保育士資格の取得支援 ・研修の実施 |
1つ目は、保育士資格の取得支援です。保育士資格の取得を支援するため、無資格の方を対象に、修学資金や資格取得・就職活動にかかる費用の貸付や援助を行っています。
2つ目は、市区町村などの自治体による、研修の実施です。すでに保育士として働いている人を対象に、離職防止や、キャリアアップのための研修を行っています。
保育士不足を解消するための都道府県(自治体)制度
全国の地方自治体でも、それぞれに、保育士不足解消のための制度が設けられています。
具体的には、以下4つのような制度があります。
・奨学金返済支援
・保育士の子どもの優先入園
・家賃補助制度
・処遇改善手当
ここからは、上記4つの制度について、それぞれ解説していきます。
奨学金返済支援
1つ目に紹介する制度は、奨学金返済支援です。
奨学金返済支援は、大学や専門学校で利用した奨学金の返済を行っている保育士を対象に、返済費用を補助する制度です。
定められた期間、保育士として勤務すれば、奨学金を全額免除するという仕組みを採用している自治体もあります。
奨学金返済支援制度は、保育士不足に悩む多くの自治体で実施されています。
保育士の子どもの優先入園
2つ目に紹介する制度は、保育士の子どもの優先入園です。
この制度は、国が平成29(2017)年に示した「子育て安心プラン」内で「保育人材確保」のための方法として盛り込まれており、都道府県への周知も行われていることから、多くの市区町村で採用されています。
具体的には以下のような内容で、保育士の子どもが優先的に保育園に入れる仕組みです。
・保育士が保育園などに勤務する際、利用調整点数に一定の加点 ・保育士が勤務する保育園に自身の子どもを入園対象にできる |
参考:内閣府子ども・子育て本部参事官(子ども・子育て支援担当)ほか「保育士等の子どもの優先入所等に係る取扱いについて」
元々は「自治体内の保育園などの施設に勤務する場合に限り」加点する自治体が多かったのですが、国は「自治体の圏域を超えた利用調整」をするように、勧告しています。
家賃補助制度
3つ目に紹介する制度は、家賃補助制度です。
家賃補助制度は、保育士が住んでいる物件に対して、家賃のすべてや一部を補助する制度です。
国と自治体が一部補助金を出す「保育士宿舎借り上げ支援事業」といわれるものです。
これは、原則採用から10年以内の保育士を対象に、1人あたり月額82,000円などの家賃が補助されます。
東京都内など、特に家賃の高い地域や、保育士不足が深刻な地域では、各自治体が家賃補助の制度を独自に設けている場合もあります。
処遇改善手当(自治体独自)
最後に紹介する制度は、処遇改善手当です。
この制度は、保育士不足や待機児童の問題を抱える自治体が独自に設けているもので、本来の給与や賞与に、補助金が上乗せされます。
首都圏などでは珍しくない制度で、
各自治体の取り組みは「2023年(令和5年)【最新】保育士の処遇改善手当ての額や支給条件、現状をわかりやすく解説!」でも紹介しています。
保育士不足にならないように各園でできること
ここまで、国や地方自治体の制度を紹介してきましたが、保育園などの事業主にもできることはあります。例えば、以下のような取り組みが考えられます。
・保育士の待遇を改善する
・働きやすい労働環境を整備する
・保育士にとって魅力のある保育園を目指す
具体的に保育園の取り組み事例を解説します。保育士個人ではできないこともありますが、「こんな取組みをしている園もあるのか」「一員として自分ができることはないだろうか」という視点で、お勤めの職場での取り組みと照らしてチェックしてみましょう。
保育士の待遇を改善する
1つ目は保育士の待遇を改善することです。
保育士の賃金を上げるだけなので、最もシンプルな対策といえます。賃上げのための財源は、国や地方自治体の制度を活用して、確保できます。
すでに紹介した通り、国は「処遇改善等加算」などの制度を設けており、自治体によっては独自の「保育士手当」制度を導入している場合があります。
しかし、多くの場合、まずは保育園が主体となって情報を収集し、申請を行わなければなりません。受け取れる可能性のある補助金は、すべて受け取れるよう、最新の情報を入手します。
また、補助金を受けた後、保育園は補助金の割り振りを行います。ここで、補助金の効果的な使い方ができれば、保育士不足の緩和や改善が実現できる可能性が高くなります。
効果的な使い方として、例えば「保育士の評価制度を構築」をして、補助金の割り振り(給与アップ)を定量的に判断できる仕組みをつくることも挙げられます。
保育士の努力や成果が目に見える形として、自他ともに評価できる仕組みを作ると、モチベーションのアップにも繋がるでしょう。
働きやすい労働環境を整備する
2つ目は、働きやすい労働環境を整備することです。具体的には、休暇の確保や残業の削減などが挙げられます。
労働環境を整備するためには、以下のような方法があります。
・仕事の削減、業務の効率化 ・余裕のある人員配置の実現 |
仕事の削減、業務の効率化
保育士の仕事には、こまごまとした仕事がたくさんあります。掃除や片付け、洗濯、書類作成や保護者との連絡、壁面製作など…「慣例だから」と、何もかも必要以上に手をかけていては、状況は変わりません。
一度、業務内容を洗い出して棚卸しを行い、優先順位の低い業務はやめるか、やり方を変えるなどして、保育士の負担を減らす努力も必要です。
負担軽減の一例をあげると、出退勤管理を電子化して集計時間を短縮することや、連絡帳アプリを導入して業務効率をよくしている園もあります。
また、保育者だけが作る壁面は一切やめて、子どもたちの作品だけを壁面として貼る園も出てきています。
余裕のある人員配置の実現
余裕のある人員配置を実現すると、労働環境は改善します。
国が定める保育士の配置基準は最低限のもので、日々のシフトを滞りなく回し、保育士が無理なく働くには、より多くの人員が必要です。
保育士資格がなくても保育に従事できる「子育て支援員」など、保育補助にあたる人材の雇用なども進めていく方法があります。
保育士にとって魅力のある保育園を目指す
保育士不足にならないように各園でできること3つ目は、保育士にとって魅力のある保育園を目指すことです。
具体的には、以下のような方法があります。
・保育園の掲げる理想や目標、方向性を、職員全員で共有する ・日々の保育に関する話し合いの機会を、適度に設ける ・スキルアップのため、研修などへの参加を後押しする |
保育士は未来ある子どもたちを育む、魅力的な職業です。しかし、保育園が職場環境を改善しなかったり、魅力ややりがいが感じられなかったりすると、仕事へのモチベーションが下がってしまうのではないでしょうか。
子ども達の幸せのためには、職員がまず幸せである必要がある。という考え方があれば、魅力ある保育園に近づいていくでしょう。
お勤めの職場が何に取り組んでいるかだけでなく、転職を考えるときにも、仕事内容だけでなく保育園がどのような取り組みをしているか、知っておくといいでしょう。
保育士不足にならないように個人(保育士)ができること
保育士不足の対策ができるのは、国や地方自治体、保育園の事業主だけではありません。当事者である保育士ができることもあります。
例えば以下のような方法が考えられます。
・仕事方法を見直す
・新人や後輩の育成に携わる
・同じ園で働く人たちを大切にする
仕事方法を見直す
1つ目の「仕事方法を見直す」は、どんな立場の保育士にもできることです。自身の働き方を見直し、業務の効率化ができないか考えてみましょう。
業務フローの見える化やマニュアル作成も、一つの手です。効率化できそうな業務があれば、会議などの場でアイデアを共有し、周囲の意見を取り入れて、ブラッシュアップしましょう。
園全体の働き方が改善できれば、保育士の離職防止にもつなげられます。
新人や後輩の育成に携わる
2つ目の「新人や後輩の育成」は、保育士としての経験を、ある程度積んでいる方におすすめの方法です。新人や後輩とは、自ら積極的にコミュニケーションをとりましょう。
指導の形は、業務内容を言葉で指示することだけではありません。自分がお手本となって、楽しく働いている姿を見せることにも、意味があります。
同じ園で働く人たちを大切にする
最後の3つ目は、同じ職場で働く人たちを大切にすることです。
保育の方法や価値観が違っていても、子どもを大切に思う気持ちは同じです。
同じ理念や目標に向かい、子どもの為に仕事をする人たちに、尊重する気持ちや感謝の気持ちを持ちながら仕事をすることが、働き続けたい職場づくりに繋がります。
日頃の感謝の気持ちや、ねぎらいの気持ちを声に出して伝えてみてはいかがでしょうか。
保育士不足についてのまとめ
日本では長い間、保育士不足という状況が続いています。
先に、紹介をしたようにデータによると、保育士資格を持っている人の約半数が、保育士として働くことを希望しておらず、これが保育士不足の理由のひとつと考えられます。
このような背景の中で、園全体や保育士個人にも、できることがあります。まずは身近なことから取り組んでみてはいかがでしょうか。
また、保育士不足は、少子化などに伴い、いずれ解消されると予測できますが、それがいつになるかはわかりません。もしこのまま長期化すれば、社会全体に悪影響を及ぼすでしょう。
そこで国や自治体は、保育士不足を解決するために、さまざまな制度を始めています。
それらを有効に活用し、保育士としてよりよい生活を送れるようにしていきましょう。
また、「園や会社の都合で制度が活用できない」「本来貰えるはずの給与が貰えない」など、自分自身ではどうしても解決できない問題がある場合、環境を変えるという選択肢もあります。
ハローワークなども活用できますが、
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・責任の重さや事故への不安
・賃金が希望と合わない
・休暇が少ない、休暇がとりにくい
・就業時間が希望と合わない