発達がゆっくりの子どもや、障がいをもった子どもを支援する「療育」。
児童発達支援施設や、療育センター、放課後等デイサービスなど、保育士は資格を活かして、「療育施設」でも働けます。
本記事では、「療育保育士」について詳しくご紹介します。
仕事内容や役割、給料、働くうえで楽しいことや大変なことなどもご紹介するので、「療育保育士に興味がある」という方はぜひ最後までご覧ください。
目次
療育保育士とは?
正式には、「療育保育士」という職業や資格はありません。
しかし近年は、療育施設で働いている保育士や、療育分野で活躍する保育士は「療育保育士」と呼ばれているようです。
ちなみに、児童発達支援施設や放課後等デイサービスで働く指導員は「児童指導員」や「療育指導員」と呼ばれていますが、「保育士」という資格とはまた別の意味合いになります。
厚生労働省の調査によると、障がい児サービスの利用児童数は年々増加傾向にあります。
平成26年は約8.8万人だったのが、令和元年には約22.6万人となり、5年間で約2.3倍も増加していることが分かります。
そのため、保育と療育どちらの専門知識をもっている「療育保育士」は、今後も需要が高まることが予想されるでしょう。
実際に、保育士を募集している療育施設は多くあります。
参考サイト:厚生労働省「障害児通所支援について」
療育保育士になるには?
療育保育士になるために必要な資格は「保育士」です。
そのため、保育士資格を持っていれば、すぐに療育施設で働けるでしょう。
しかし、療育保育士は、一般的な保育士よりも専門的な知識やスキルが求められるため、以下のような資格を取得しておくのも一つです。
- 児童発達支援士
- 子ども発達障がい支援アドバイザー
- 発達障害児支援士資格
また、保育士の処遇改善と専門性向上のために、厚生労働省が作った「保育士等キャリアアップ研修」の中でも、障がい児保育を学べます。
行政や民間が主催している研修会も多くあるため、療育保育士になりたいと考えている方は、積極的に研修会へ参加してみるのがおすすめです。
参考サイト:厚生労働省「保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ」
療育保育士の仕事内容や役割は?
療育保育士は、「障がいのある子どもに対して、日常生活・社会生活に必要な能力を身につけるためのサポートをおこなう」ことが主な仕事です。
具体的な療養保育士の仕事内容は以下のとおりです。
- 日常生活における基本動作(食事・排泄など)の指導
- 集団生活への適応や指導
- 個別支援計画の作成や実施
- 運動や遊びの場を提供
- 知識・技能の付与
- 保護者支援
障がいと一言でいっても、障がいの特性は子どもによってさまざまなので、子ども一人ひとりの発達に合った支援をおこなう必要があります。
そのため、療育保育士は子ども一人ひとりの「個別支援計画」を作成して、子どもたちと丁寧に関わっていきます。
とくに大切なのは、子どもたちが成功体験を得られるように、遊びや活動の中で工夫することです。
子どもにとって小さな成功体験を重ねていくことは、自信や大きな成長につながります。
療育では、この「小さな成功体験を積み重ねる経験」がとても大切になるので、療育保育士はその視点をもって計画を立てて、子どもたちと密に関わっていきます。
また、保護者支援も療育保育士の大切な役割です。
子どもの療育は、施設の中だけでおこなうのではなく、家庭との連携が必要不可欠なので、保護者とこまめにコミュニケーションをとりながら、子どもの成長を一緒に見守っていきます。
療育施設に子どもを通わせている保護者の多くは、育児に対する不安や悩みを抱えている場合が多いでしょう。そのような保護者に丁寧に寄り添って、一緒に解決できるようにサポートするのが療育保育士の大切な役割といえます。
参考サイト:厚生労働省「児童発達支援ガイドライン」
療育保育士の給料や年収は?
療育保育士の給料(年収)が気になる方もいるかもしれません。
ここでは、厚生労働省委託事業※において、マッチングの質が評価され、第一回適正事業者として認定されている当サイト「保育士人材バンク」にある求人を一部ご紹介します。
※医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度
東京都(大田区)放課後等デイサービス
雇用形態 | 正社員(保育士) |
勤務時間 | 09:15~18:00時間外労働時間:月平均2時間 |
給与 | 月給290,000円〜年収3,480,000円〜 |
神奈川県(横浜市)児童発達支援
雇用形態 | 正社員(保育士) |
勤務時間 | 09:00-18:00 |
給与 | 月給240,000円〜 |
千葉県(市川市)放課後等デイサービス
雇用形態 | 正社員(保育士) |
勤務時間 | 10:00-19:00(平日)09:00-18:00(土曜日・日曜日・祝日) |
給与 | 月給250,000円〜 |
令和2年の賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均給料は249,800円なので、療育保育士の給料は同じくらいか、それよりやや高めの場合があるでしょう。
保育士としての経験や役立つ資格、専門スキルをもっている場合、施設によっては手当が支給される可能性もあります。
また、児童発達支援管理責任者や管理者などの求人になると、月収40万円を超える求人もあるので、保育士としてキャリアアップを考えている方はチェックしてみるのがおすすめです。
保育士資格を活かして、保育園以外の職場で働きたい方は、療育施設へ転職してみるのも一つの選択肢かもしれません。
参考サイト:e-Stat_政府統計の総合窓口「令和2年賃金構造基本統計調査」
療育保育士と保育士の違いは?
「子どもの発達や成長を支援する」という意味では、療育保育士も一般的な保育士も同じですが、支援の目的や関わり方が異なります。
まず、療育保育士は、「子どもたちの発達や学習支援に重点」を置いて関わります。
一人ひとりの特性に合ったプログラムを用いて、行動療法や認知行動療法など専門的なアプローチで子どもと関わります。
一方、一般的な保育士は、「就学前までの子どもたちの日常的なケアや教育」をおこないます。
遊びやさまざまな経験を通して、基本的な生活スキルや社会的なスキルの発達を促すのが保育士の役割です。
また、保育園は年齢によってクラスが分かれているのに対して、療育施設は発達段階や障がい特性に応じてクラスを分けて少人数で療育する場合があります。
さらに、サポートするスタッフにも違いがあります。
保育園では、おもに保育士が中心となって保育を進めていきます。
しかし、療育施設では、「保育士」「医師」「理学療法士」「言語聴覚士」「作業療法士」「臨床心理士」「言語療法士」「児童指導員」「介護福祉士」など……さまざまな専門分野のプロフェッショナルが療育に関わります。
すべての職員が在籍しているケースは稀(まれ)ですが、外部の専門職員と連携をとりながら、子どもたちの特性にあわせた療育プランを考えるのが一般的です。
療育保育士の楽しさやメリット、やりがいは?
療育保育士として働く楽しさやメリットは、以下の3つです。
療育保育士のメリット①【子どもの成長にやりがいを感じる】
子どもの成長を近くで見守れるという意味では、一般の保育士も療育保育士も共通しています。
しかし、療育保育士の場合は、子どもたち一人ひとりの特性にあわせて、より専門的で丁寧な関わりが求められます。
療育において、子どもたちの特性に寄り添うということは、スモールステップで段階的に「できる」を増やしていくことが大切です。
そのため、子どもたちの「できた」が一つずつ増えていくたびに、大きな喜びとやりがいを感じられます。
保育園と比べて療育施設は少人数制になるので、一人ひとりと密に関わることで信頼関係を築きやすく、一つひとつの成長に喜びを感じられるのが魅力といえるでしょう。
療育保育士のメリット②【保育士としてのスキルアップにつながる】
療育保育士として働くことは、保育士としてのスキルアップにもつながります。
療育を学べると、子どもたち一人ひとりの特性に合わせて深い支援ができるようになります。
保育園でも発達が気になる子どもと関わる場面もあるでしょう。
特性や適切な関わり方が分からないと、「どうすればいいの?」と不安や悩みを抱えてしまいますよね。
しかし、療育保育士として経験を積むことで、専門的な知識や関わり方を身につけることができるので、保育士としてスキルアップできるでしょう。
療育保育士のメリット③【キャリアップも目指せる】
近年は、障がいをもった子どもを受け入れる保育園も徐々に増えてきているため、療育の知識をもった保育士は必要な人材として重宝される可能性があります。
前述したとおり、保育士の処遇改善と専門性の向上を目的とした「保育士等キャリアアップ研修」の科目の中にも、障がい児保育が入っています。
一般的にキャリアアップが難しいといわれる保育士ですが、療育施設で働いたり、専門知識を身につけたりすることで、キャリアアップも目指せるでしょう。
療育保育士の大変なことやデメリットは?
療育保育士として働くうえで、大変なことやデメリットは以下の3つです。
療育保育士のデメリット①【子どもとの関わりに悩む】
療育施設に通う子どもたちは、さまざまな特性をもっていて、中には意思疎通が難しい場面もあります。
不安な気持ちから強い警戒心を示す子もいれば、パニックや癇癪(かんしゃく)を起こしてしまう子どもも中にはいるでしょう。
その場合、子どもが何を主張しているのかが理解できず、関わりの難しさに悩むこともあるかもしれません。
療育保育士として経験を重ねることで、少しずつ適切な関わり方が分かるようになりますが、慣れるまでは「つらい」「自分には合わない」と感じる保育士さんもいるでしょう。
療育保育士のデメリット②【怪我や事故に対する危機感に疲れてしまう】
療育施設には、「発達障がい」や「自閉症スペクトラム症」など、さまざまな特性をもった子どもがいます。
発達障がいや自閉症の子どもの中には、不安からパニックや癇癪(かんしゃく)を起こしてしまう子もいれば、興味があるものに突然走って行ってしまうなど、予期せぬ行動をとる子どももいるでしょう。
他にも、自分の気持ちを上手く伝えられず、自分や相手を叩いてしまう子どももいます。
そのため、怪我や事故につながる場面が多くあり、保育士はどんな時でも目を離すことができません。
その責任から、不安やストレスを感じてしまう方もいるでしょう。
療育保育士のデメリット③【自主的な勉強が必要な場合もある】
療育施設に通う子どもたちは、さまざまな発達障がいを抱えています。
そのため、一人ひとりの特性や成長のペースに合わせて寄り添い、きめ細かな支援が必要です。
しかし、保育士としての知識だけでは関わりが難しいため、自ら療育分野に関する専門知識を勉強して身につける必要があるでしょう。
療育保育士の中には、勤務時間外に勉強している方もいるようで、それが負担となる場合も少なくありません。
しかし、ポジティブに捉えると、身についた知識や経験は自分にとって一生の財産になるので、転職などで自分の強みとしてアピールできるメリットもあります。
療育保育士に向いている人
以下のような人は、療育保育士に向いている可能性があります。
- 保育士としてスキルアップ・キャリアアップしたい人
- 個別や少人数で子どもとじっくり関わるのが好きな人
- 自分自身の専門性を高めたい人
- 向上心がある人
- 臨機応変に行動できる人
- 物事をポジティブに捉えられる人
- 保育士資格を活かして保育園以外で働きたい人
療育保育士は大変なことも多いですが、子どもたち一人ひとりに合わせて丁寧にじっくり関われるのが魅力です。
向上心がある人や、物事をポジティブに考えられる人は療育保育士に向いているといえるでしょう。
療育保育士に向いていない人
以下のような人は、療育保育士に向いていない可能性があります。
- 忍耐力がない人
- 計画通りに行動したい人
- 体力に自信がない人
- ネガティブ思考な人
- 勉強が苦手な人
療育において一番大切なのは、子どもたちの成長を長い目で温かく見守ることです。
そのため、それなりの辛抱強さがないと挫折(ざせつ)してしまう可能性があります。
また、療育現場において、子どもの予期せぬ行動は日常茶飯事です。
臨機応変な対応が求められることも多いため、計画通りに行動したい人には向いていないでしょう。
さらに療育は、さまざまな発達障がいの特性や適切な関わり方を理解する必要があり、時には自主的に勉強しなくてはならないこともあります。
勉強が苦手な人や、新しいことに挑戦するのが苦手な人は「合わないかも」「難しいかも」と感じる仕事かもしれません。
療育保育士への転職方法は?
療育保育士への転職方法は、ハローワークに行ったり、療育施設のホームページを確認したりなど方法はさまざまありますが、中でも「求人・転職サイトを活用する」のがおすすめです。
療育施設といっても、さまざまな施設形態がありますし、方針や待遇面は施設によって異なります。
そのため、求人・転職サイトを利用すれば、自分がこだわりたい条件面などを検索して、効率よく転職先を探せるでしょう。
とはいえ、「働きながら一人で転職活動するのは難しい」という方もいるかもしれません。
そこで、保育士の転職に特化した「転職エージェント」を利用するのも一つです。
保育士専門の転職エージェントであれば、条件面の交渉や面接対策など手厚いサポートを受けながら、効率よく転職先を探せるので、働きながら転職活動する方にも安心です。
療育保育士、履歴書・職務経歴書の書き方、面接の仕方は?
ここでは、保育士から療育保育士へ転職したい方向けに、履歴書・職務経歴書の書き方、面接のポイントをご紹介します。
療育保育士の履歴書の書き方
療育保育士の履歴書の書き方は、保育士の基本的な書き方と大きな違いはありません。
ただし志望動機では、以下のポイントを意識して書くのがおすすめです。
- 療育施設で働きたいと思った理由
- 数ある中でもその施設を志望する理由
- 自分の強みやスキルをどのように仕事に活かせるか
療育施設で働きたいと思った理由は、できるだけエピソードなどを入れて具体的に書くのがよいでしょう。
たとえば、「保育園で支援が必要な子どもと関わる機会があり、専門的な立場で子どもと関わりたいと思った」など、自分の経験やきっかけとなった理由を入れるのがおすすめです。
また、その施設で働きたい理由も明確に伝えるようにしましょう。
他の施設でも通用するような志望動機にならないように、「説得力のある理由を入れる」のがポイントです。
療育保育士の職務経歴書の書き方
療育保育士の職務経歴書には、あなたのこれまでの経験とスキルが伝わる内容を盛り込みましょう。
たとえば、職務内容や任されたポジション、その職務を通して学んだことなどをできるだけ詳しく記載するのがポイントです。
自分では、「これは書いても意味がない」と思っていることでも、採用担当者には“自分の強み”として伝わる可能性もあるので、積極的に書いてアピールするのがおすすめです。
また、自己PRには、仕事に対する思いや入社後どのように活躍したいかを書きましょう。
療育保育士の面接の仕方
療育保育士の面接で良い印象を与えられるように、以下のポイントを中心に準備しておきましょう。
とくに、転職の場合は、退職理由を細かく聞かれる可能性があります。
ネガティブな理由をそのまま伝えてしまうと、「転職してもすぐに辞めてしまうかもしれない」と悪い印象を与えかねません。
そのため、ポジティブに伝える練習をしておくのがおすすめです。
また、面接の最後に、「何か質問はありますか?」と採用担当者から逆質問をされる場合があります。
これは、やる気や関心があるかどうか試されている可能性があるので、保育に関する質問を事前に用意しておくのがよいでしょう。
療育保育士のまとめ
療育保育士について、仕事内容や給料、働くメリットやデメリットなどご紹介しました。
療育保育士は、今後もニーズが高まっていくことが予想されるでしょう。
専門的な知識やスキルが必要になる仕事なので、大変なこともたくさんあります。
しかし、子どもたちと密に関わることができるので、大きなやりがいを感じられる仕事でもあります。
また、療育は保育現場ともつながりが深く、子ども一人ひとりの特性に合わせて、丁寧に対応をおこなっていくという意味では、共通点が多い仕事です。
そのため、「保育経験を活かして転職したい」「保育士としてさらにスキルアップしたい」という方は、保育士から療育保育士へ転職するのも一つでしょう。
保育士として働いている方の中には、「自分には保育士が向いていないかもしれない」、「今の職場が辛くて保育士を辞めたい」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、保育士資格を活かして働ける職場は他にもたくさんあります。
保育士人材バンクには、保育園や幼稚園、療育施設、院内保育など……保育士の資格と経験を活かせる求人を多数ご紹介しています。
保育士専任キャリアパートナーが、あなたの不安や悩み、ご希望に寄り添いながら、最適な選択をご提案させていただきます。
療育保育士が気になっている方、転職するか悩んでいる方は、ぜひお気軽に、保育士人材バンクにご相談ください。
療育についての特集ページもありますので、興味がある方はこちらもチェックしてみてください!